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小説置き場  通常は3の倍数日に更新します   取り扱い:リリカルなのは二次SS
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そう たとえ呼ばれなくても いつもそこに居る


今回も区切りとれず文章長めです

追) あとがきから過去作に飛ぶリンクを追加







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   【SIDEOUT】
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元の世界へ戻るべく 延々と続く扉の群れを攻略するティル。
しかし そのほとんどが何も無い もしくは部屋ですらない扉。
ここはティルの記憶から作られた空間
入ったことのない部屋の再現は やはりできなかったようだ。




ほぼ半分の距離まで来て ティルに諦めの表情が出始めたときだった。


「ティル、ここに居たの」


聞き慣れた自分を呼ぶ声。 
しかし声の主は聞き慣れた者ではない。

呼んでいるのはティルの兄。
ユーノが似た声なので そう感じた。
姿も雰囲気も ふたりはよく似ている。
兄の、そしてユーノのデバイスであるフェルが 生まれ変わりと称したほどに。



「部屋に居ないから探したぞ。
 ティルの好きなおばさんも心配してたんだ。
 さぁ 戻ろう」
「・・・にぃに ごめんなさい あたい かえれない」
「帰れない? 『帰る』とはどういうこと?
 ここも 同じ建物 ティルの家の中だよ」
「ちがう そうじゃない。
 ここは あたいのいえであって ほんとうは そうじゃないの」

「ティル何を言い出すんだい?
 怖いものでも見たのかい」
「・・・なにも なかった。
 なにか あるはずなのに おへやには なにも なかった」
「それはティルが気にしなくてもいいようにさ」
「にぃに ちがうの そうじゃないの。
 あたい しってる それは ここが ほんとうのせかいじゃ ないから。
 あたい ほんとうのせかいに かえらないと いけないから」



兄は 表情を変えなかった。
ティルに にこやかな顔をみせるだけで
しばらく何も喋らない 無音の時間が流れた。



「・・・ティルは おりこうだね。
 もう 全部知ってるんだ そうだね」
「・・・うん」
「ティルがいなくなったら このにぃにも、父上も おばさんも
 みんな消えてなくなっちゃうんだよ?」
「・・・ごめんなさい でも あたいには まってるひとが いるから」
「どうしてもかい?」
「どうしても」





「まいったな ティルがそこまでいうなら
 僕に拒否する権利は無いかな」


ティルに目線を合わせてた兄が すっくと立つ。
ティルは内心 力づくでも戻されるのではと不安になっていた。
しかし 兄はそれをしなかった。


「メルに問う 君も同じ意見なのかい?」
「兄君には悪ぅとはございますが そのとおりです。
 姫には 今という時間を生きるこの時が大事でございます」
「過去に囚われた僕らにはできないことだ。
 分かった 僕もティルの大事なものを失いたくは無いからね」



スッと 右手を掲げる兄。
そこに 今まで散々開けてきたものとは違う扉ができた。
幻の空間だからこそできる芸当だ。
つまり 兄はここがそういう空間であることを知っている。


「おいて ディル。
 不肖の兄から ひとつ渡したいものがある」



扉は 誰が手をかけるでもなく
ひとりでに開いた。








扉の先は 少なくとも何も無い空間ではなかった。
ただ、質素な部屋。
ティルにも見覚えがある これは兄の自室。
生前 兄はこういう質素な空間を好んでいた。


質素な空間に違和感なくたたずむ本棚。
兄はそこから本を一冊出し ティルに手渡した。



「僕が十五の誕生日に父上から頂いたものさ。
 僕ら一族が代々伝えてきた本 と父は言ってたが」


ただの本ではなかった。
魔導書 というには大げさだが ある魔法の術式と使い方が記されている。
ただし ティルの住んでいた地方独特の訛りがあり
たとえ同じ時期に生きていたベルカ人でもやすやすと解読できない。
それを逆に強みとして 一子相伝で伝えてきたものだ。



「あやうく僕の代で尽かせてしまうところだったけれど
 こうして ティルに伝えることができた。
 この世界にも感謝しないとね」
「にぃに どういうこと・・・」
「ごめんねティル 全部知ってたんだ。
 僕だけじゃない 父上も おばさんも
 もうこの国が この世界が 遠い過去のものだって。
 ここがティルの記憶の片隅から作られた まがい物の世界だって。
 ほら フェルが居ないだろう?」


そういえば いつも聞き手にあったフェルが居ない。
ここに来るために扉を出したときも聞き手を使ってたのに
待機状態でも見える場所に付けていたはずの 大事な相棒が。


「フェルは次の代の 新しい主を見つけたんだね。
 フェルと新たな主は 仲良くやってくれていればいいけれど」
「とても 仲良ぅございます。
 それはもう 兄君の写し身のような方にございます。
 姫にも好かれておりますゆえ そこはご安心を」
「あぁ、それは良かった。
 ティル 今渡した術式は消費が激しい。
 本当に困った時だけ使うんだ。
 僕は手助けできないけれど 一族の術式はきっと助けてくれる。
 そのとき 少しでもいいから兄のことも思い出してくれ」
「にぃに・・・」






「・・・そろそろ 時間のようだ」


政務の ではない。
見れば兄の身体が 薄くなって見える。
いや 実際薄くなっている。
ティルの見えない側から光となって霧散していたらしい。


「すまない 僕がティルにしてやれることは ここまでみたいだ。
 本当は向こうまで 本当の世界に帰るまで見届けたかったんだけど
 ティルの”帰りたい”意思が強かったらしい」
「にぃに!!」
「ティル、僕は 兄はいつでもティルを見守っているよ。
 大好きだ」
「あたいも すき にぃにのこと ぜったい わすれない」
「ありがとう そんな兄からアドバイス。
 人は一人では生きていけない 信頼できる人を頼ることも手だ。
 ・・・がんばってな」




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大好きな兄と共に 兄の部屋も光となって消え
残ったのは やはり何も無い空間だった。


扉すら霧散し 穴の開いた壁を抜ける。
そこは建物の中ほどにある広間   ・・・だった場所
ここも 家具や装飾のいたるところが消えかかっている。


ティルがこの世界の元となる 生まれた世界で過したのは3年足らず
物心ついて間もない頃の記憶から無理やり作られたこの空間に
無理がかかっていた。




「姫 だめです。
 先ほどまでせわしなく働いていた使用人も 外にいるはずの住民も
 父君・・・ 長の気配すら掴むことができません」
「みんな きえちゃったの?」
「おそらくは。
 姫が幻を打ち破ろうとした結果がこれでは 元の木阿弥だったでしょうか。
 そう進言した私の責任です」
「ううん あたいも かんがえてたこと おなじ。
 だから メルのせいじゃ ない。
 でも どうしよう・・・」




兄は言っていた。
信頼できる人を頼れ と。

頼れる人物となると ユーノやなのは、フェイト、アルフ
あとは アースラのひとたち 高町家の皆、アリサ、すずか

後半の人はともかく 出てくるのは今まさに最前線で戦ってる人の名前。
仮に呼び出せたとしても ここに呼んでは勝てる戦いも勝てなくなってしまう。
一般人であるアリサたちを呼んでも仕方ない。



最前線の魔導師ではない 頼れる人。
そういえば と、ティルに一人の名が浮かぶ。
魔法使いではないが 一般人とはかけ離れた人物
どういうわけか 結界の中であろうとおかまいなく入り込み
いつも当然のように出現する 不思議な人。







「呼ばれたからには・・・」


「シュテルぅ!!」




そう そうやっていつもカメラ片手に出てくる不思議な人が。





目のまえに本当に出現すると肝を冷やすものである。
が、頼れる人どころか 人という人見境無く居なくなった世界で
ティルにとってはこれほど有難いことは無かっただろう。





「すみません もう少し早く現れる予定だったのですが」
「はやく? あれ、シュテルなんかちがう」


思い浮かべた人物が本当に目のまえに現れたことは
シュテルの神出鬼没さからすれば むしろ問題ではなかった。
が、現れたシュテルは 確かにシュテルなのだが
自分の知る彼女では無かった。

自分の知るシュテルは 確かナノハより3歳年上だった。
が、目のまえのシュテルはむしろ同年代といったほうがいい。
ナノハのジャケットに近い外見の 色違いの服を着て
手荷物の派いつものカメラではなく これまた色違いのレイジングハート。



「貴女が今思ったとおりです。
 私は”シュテル”であますが 貴女が知る”シュテル”ではありません。
 私は闇の書の一部 本来は別の目的で生み出されるはずだった存在
 この姿は外にいる タカマチナノハをもとに具現したもの。
 精神は貴女のイメージで 貴女の”シュテル”の影響を受けたようですが」


シュテルではない でも シュテルには違いない。
しかし自身の身分をあっさり明かした 敵意は無いことが伺える。
そして現れる予定だったということは 救援には違いない。
ティルは とりあえず理解して ほっとすることにした。





闇の書のシュテルに導かれ 再び何も無い研究区間を走る。
彼女はなんの迷いも無く 同じ扉が続く通路からひとつの扉を選んだ。
開けると これまで何もない部屋か壁しかなかった扉の先に
新たな通路が姿を現す。


「この先です さあ、お行きなさい」
「このさき?」
「これが【この世界】を出るための 唯一の道です。
 貴女は意志の強いお方 もう【この世界】は持ちません。
 人物は先に消えたようですが 間もなく世界もろとも崩壊します」


確かにこの世界には 既に自分とシュテル以外の人影は無かった。
兄同様光となって霧散したのかは分からないが 予兆としては十分。
現世に戻れるなら願っても無い。


「わかった シュテルも・・・」
「私は この先には行けません」
「どうして?」
「私が 闇の書の一部だからです。
 心配は要りません 闇へ還るだけですから。
 貴女と 外にいるナノハ達には 期待してます お行きなさい」


世界が崩壊し始めているのが分かる。
空気の歪みというべきか 不快感を感じ取れた。
ここで足を止める気は無いが せっかくなら目のまえの彼女も助けたい。




そうティルが考えてるのは シュテルの想定範囲内だったらしい。
手にしたレイジングハートもどきから 衝撃波と共に射撃弾が発射される。
ダメージはないデゴイのような射撃だったが ティルはその場から飛ばされた。
その一瞬のうちに シュテルは扉を閉める。

扉は 幻のように消えた。
いや、この世界にある以上元々幻であることは確かなのだが
そこには壁しかなかった。
通ったはずの場所が閉ざされ あとは行けといわれた一本道のみ。



『早く お行きなさい』


念話 ではなく世界に響くような形でシュテルの声が聞こえる。
返事をしようにも 念話の会話先が特定できない。
ジャミングされてるのか 存在として検知できないのか。


ティルは 先に進んだ。
世界が崩壊する前に 脱出するほか手はもう無い。
せめてお礼くらいは言いたかったと 若干の後悔を残して。








「行きましたか 私の役目は達しましたね」


現実へと続く道を封鎖したシュテル。
これで彼女は こちら側に戻ってくることはできない。
彼女にできるのはここまで。


「管制人格も大胆なことをします。
 夢に閉じ込められた二人を助けるためだけに私達を作るとは。
 芝居としては人事は最悪ですね。
 おかげで無駄な感情を持って 私達が辛いじゃないですか。
 このツケは 三途の先でしっかり払って頂きましょう」


独り言をいいつつ シュテルは歩き出した。
崩壊しつつある方向へ 自ら足を向けて。




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   (あと)


ティル、謎の本ゲット

8章-1【呼べばどこからともなく出てくるシュテル】フラグ回収
ただ今回出てきたのは マテリアルSだったわけですが
さらに正確には マテリアルではなく リインの作った救援だったわけですが

フェイト側とあえて展開を似せてます
ただしマテリアルLが本人が先に霧散したのに対し
おそらくマテリアルSより夢世界が先に崩壊します



前回お約束の答えです マテリアルL・Sが出てきた理由
これには マテリアル側に理解があり 脱出を促そうとする この2つの共通項目から
過去作、5作目『我輩はリリカルマジカルである』 のオマージュを意識してるからです
言うなれば 我輩リリマジ3章-13【夢の世界のディアーチェ】のフラグ回収とも言えます
リリマジではシュテル・レヴィが削除され出ず
今回はディアーチェが出てきません




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